運命の果てまで

テイルズ(V/G/A/S-R/D)・FF・Dグレなど、ゲームやマンガに好き勝手萌える腐ログ

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あの日、と呟く -バシュバル-

年明け最初のSSがこんな感じ。バシュバルチョイスは去年に引き続きN野様にブレイブを送っているからです。別名プレッシャー。自分がちょっと軽くなったからと他人さまに迷惑をかけるのが目的(笑)。


十年前のあの日、それは心臓が止まった日だったといっても過言ではない。あの時のことを思い出せば今でも手が汗ばみ、けれど全身の血液が凍ったような寒気を抱き、心臓が早鐘を打ち呼吸ができなくなる。
思い出したくもない感覚だ。だがあの瞬間ほど彼のことで満たされた瞬間はない。自分でも度し難いことだとは思うが「失って初めて気づく」などという、小説で使われているようなフレーズがお似合いだった。
油断していた。昨晩まで腕の中に抱きしめていて、つい先ほどまで決着をつけて生き残ったことに安堵していた。その瞬間が一番危険なのだと数多の経験で知っていたのに、失いたくないものを奪われる事態は去ったのだと、勝手に思い込んでいた。そうやっていくつものものを失ってきたというのに、また、間違えたのだ。十年前のあの時。
バッシュは無言のままジャッジの兜を脱ぎ、ベッドの上へと転がす。空気の入れ替えのために僅かな隙間が開けられたままの窓から冷たい夜風が入り込んできて頬をなでていく。外気は雪混じりの風を運ぶほど冷たいが、鎧に身を包んだままの身体には心地良い温度だった。軽く通気性も考えて作られている鎧ではあるが、素肌や素顔を曝して旅をしていた頃と比べると窮屈感があるのは致し方ない。
それに鎧だけではなく「ガブラス」の名も被らねばならない身だ。執務が終わった後とはいえ、普段は容易にバッシュに戻れる訳ではない。自分で決めた道であるから後悔などはしていないが、年に一度、この日ばかりは閉じたはずの心の鍵が緩む。
鎧を着たままテラスへと続く窓を押し開いた。窓際のテーブルにはワインと2つのグラスが用意されている。予めバッシュが用意させておいたものだ。最初はグラスを2つという注文に不思議な顔をした使用人も、毎年のこととなると何も問い返しはしなかった。
何のために用意されているものなのか薄々感づいてはいるのだろう。あの日はバッシュ達だけではなく多くの者たちにとっても運命の日だった。今日という日を考えれば、差し出がましくない程度の推察は容易に付くだろう。それに指定しなくても用意されるワインがあの年のものであることは、口には出さないが有難かった。
グラスにワインを注ぐ。
最初にテーブルに置いたままのグラスに、そして次に自分の手元のグラスに。ちょうど同じ量だけ注ぐ。そして少しだけ持ち上げて口に運んだ。
「あの日、私が止めていたらキミは何と言っただろうか」
呟いた言葉はグラスに注いだワインの中に溶け込んでいく。普段飲み慣れた味が妙に苦く感じるのは毎年のことだ。不思議とこの感覚が弱くなることはない。後悔、と名付けてしまうにはあまりにも大きく不可逆な分岐点。
「アンタ、よく飽きないな」
そう、バルフレアは言う。
過ぎたことを悔やんでも何も変わらない。もし止めていたとしてもバルフレアの性格を考えればバハムートに飛び込んで行っただろう。バッシュが共に行くと言ったとしても、鼻であしらわれただけだろう。助けに行ったとしても、見事な蹴りで追い出されたことだろう。
わかっている。わかっているけれどもこの日ばかりは考えてしまう。もしあの時、と。
「……今日ぐらいは許されるだろう?」
「勝手にすればいいさ。ただ、毎年毎年よく飽きないものだと感心してるだけだ」
グラスを下ろして室内を振り返ると、彼はベッドの上の兜を持ち上げた。
「それとも俺への当てつけか?」
「当てつけられるような心当たりが?」
「ないと答えたいところだが、毎年毎年同じことをされてりゃぁ、残念ながらあるとしか言いようがないだろうよ」
ヘイゼルグリーンの瞳でバッシュを捉えると、肩を竦めて見せた。他愛もない動作のいちいちが計算されつくしたように様になっているが、彼のその動作も毎年同じだということを気付いていいるのだろうか。まさかとは思うが、けれど彼のことだからわかっていて毎年同じ反応を返してくれているのかもしれない。口では付き合いきれないと言いながらも、バッシュの感傷に合わせてくれているのかもしれない。
「本当にあの時、私は心臓が止まるかと思ったのだよ」
「毎年聞いてる」
「バハムートは損傷が激しく捜索も不可能だった」
「それも聞いた」
「それから私が一体どんな思いで――」
「そいつも何度も聞いてる。だから、」
強めの口調がバッシュの言葉を遮ったが、視線が合うとゆっくりと笑った。
「だからアンタの所に会いにきた。そして会いに来てる。それのどこが不満だ?」
「すべてだ」
「すべて?」
「キミは昔から私の思い通りには動いてくれなかった。それなのに今は私の望んだ状況がここにある。それが――不満だ」
合わさった視線に吸い込まれそうになる。二度と触れられないと思っていた肌が目の前にあり、手の届かない空を飛び続ける姿が地上にある。失われたはずの美しい瞳がバッシュを捉え、歌うように優雅な声が鼓膜をたたく。望んでも手に入らないはずのものが、今ここにある。これ以上ないほどの満足と、これ以上ないほどの不満と共に。
「アンタ、贅沢だな」
「そうかもしれない」
「俺が断言してやる。アンタ、贅沢過ぎるぜ」
「あぁ」
「それはな、不満じゃなくて不安だ。違うか?」
きっとバルフレアの言う通りなのだろう。望むものが与えられている瞬間。それを手にする資格が自分にあるのかわからず、揺れ動いてしまう。資格などないと言われても、手にしないなどという選択肢などどこにもないというのに。
「そうだな。私は不安、なのかもしれないな」
靴音を鳴らしながらベッドに歩み寄る。見上げてくる瞳はずっとバッシュを捉え、口の端に浮かべられたシニカルな笑みもあの旅の時から変わらない。何も変わらない。ずっと変わらない。十年たっても鮮やかな記憶と完璧に重なり合う。
「こうしてキミに触れるこの瞬間、長い夢が覚めてしまうのではないか、とね」
「訂正。アンタ重度の我儘だ。俺が保証してやる」
夢が覚めるのが怖ければ触れなければいい。触れたいのであれば夢が覚めることを怖れず触れればいい。どちらの選択肢も手の中にあるはずだ。自分自身で選べばいい。望むのは夢か現実か。曖昧な世界か鋭利な世界か。
朗々とした声に耳を傾けながら今年もまた、艶やかな姿へと手を伸ばすべきか否か、答えなど見つからない逡巡に身を浸した。


暗いのか明るいのかは皆様にお任せします。
これでも一応は閲覧者様に配慮した話にしたつもり…たぶん。

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