運命の果てまで

テイルズ(V/G/A/S-R/D)・FF・Dグレなど、ゲームやマンガに好き勝手萌える腐ログ

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非日常が囁く

ぺさんでたぶん綾主。

12/2イベントのSS。
遅刻したのが悔しい。


 

 日常なんてものはとっくになくなっていたはずだった。
 この町に戻ってきてから、遅延した電車を降りて一人寮へと向かったあの日に奇妙な影時間を体験した時から、屋上で巨大なシャドウと遭遇しペルソナを呼び出した時から、日常とか平穏とかいうものはもう自分の時間枠の中には存在しなくなったはずだったのだ。
 それなのに人は慣れるもので、いつしか奇妙な影時間も不気味なタルタロスも、そこで繰り広げられる命を懸けた戦いも、特別の枠組みから零れ落ちてしまっていた。慣れというベールを非日常というソファの上に被せ、気づかないふりをしながら、自分が座っている場所がいかに不安定で異常なものかということから目を逸らし、亡くなったはずの日常の幻を夢ていたのだろう。
 自分が生活している場所が日常で、日常は常に当たり前のようにあって、昨日と同じ今日は今日と同じ明日へと続いていく、そんなことを疑いもしていなかった。非日常の中に自分がいることを忘れて、絶望はいつも息をひそめながら自分の隣に佇んでいることを見て見ないふりをして、そうして何事もないように日々を過ごしてきた。
 そのツケがきっと、これ、なのだと思った。
 だからこそ大切なものが壊れ、大切なものが立ち去っていく、そんな状況を予想もできず止めることもできなかった。ただ痛みとも哀しみとも諦めとも表現しがたい、鈍い息苦しさの中で窒息するのを待っているかのような、そんな状況に立ち尽くすしかできなかった。
 壊れたアイギスの贖罪を求めるような十年前の出来事の告白。自身の状況など顧みずただこちらの心配だけを繰り返す。それはまさしく壊れた機械のように、何度も何度も同じことを繰り返していた。ただの機械と違うとわかるのは、その声が抑えきれない悲痛を示しているからで、痛覚はないと申告していた彼女にも心としての痛みはあるのだと、場違いながら何故か少し安堵した気持ちで手を取ったものだ。
 冷たい手は、機械だから当然の温度なのだが、まるで徐々に体温を失っていく人の体を思わせて、嫌な感覚が背中を伝っていく氷のように滑り落ちた。だがそれ以上に、つい昨日までは煩いぐらいに騒いでいた彼の声が、綾時の明るかった声が、全てを凍りつかせる氷の針のように鼓膜をゆっくりと震わせたのが何よりも心に突き刺さった。
 その淡々とした響きが、申し訳なさそうに伏せられた瞼が、あぁこれは間違いなく現実なのだと教えていた。
「ごめん」
「……綾時」
「僕のせい、だよ」
 垂れ下がった瞳は学校の女生徒の誘いに喜んでいる時と同じ、順平とくだらないことを言って笑っている時と同じもののはずなのに、少しの明るさも楽しさも探し出せはしない。短い言葉の一つ一つが温度を下げる機能を有しているみたいだ。耳に届く音の一つ一つが不安が加速度的に増大させていく。
 広い額に月明かりが当たって、いつだったかそれを指差して笑った夜があったはずなのに、今は笑いの欠片も出てこなかった。指で弾いてやればいい音が鳴るだろうなと考える思考は、自分のものながら無理をして日常に縋りつこうとしているように、見っとも無く軋む。
「全部……思い出したよ」
「綾時」
「僕が何者なのか、どうしてここに居るのか、何をする存在なのか全部思い出してしまった。だから……ごめん」
「綾時」
「ごめんね。……ちゃんと説明する、から」
 まるでアイギスの状態が映ってしまったかのように、綾時も同じ言葉だけを繰り返し再生する壊れた機械になってしまったかのようだった。ぎゅっと引き結ばれた唇は、いつものよくしゃべる口角の上がりっぱなしの唇とまったく違う。眉間にしわを寄せるように歪められた瞳は、遊び道具に飛びつく犬のような表情豊かなものとは違う。力の限りで握り込まれた手のひらは、邪魔なくらいにいつもこちらに伸ばされてきたあの指先とは違う。
 ここに居るのは綾時で、けれど綾時らしくなかった。
 何よりも、こちらと目を合せないように微妙に視線をずらしているのが、何よりも彼らしくなかった。いつだって、泣きそうな時も拗ねている時も楽しそうな時も、その眼差しはいつだって真っ直ぐとこちらを映していたというのに。
 腕の中のアイギスを先輩に委ねる。自力で動けそうにないアイギスをここからは連れ帰るには車が必要だ。だから軽く頭を撫でてから離れ、綾時の前に立つ。
 一瞬息を飲む音が響いたのは、危ないと言いかけた誰かが言葉を飲み込んだものだったのか、それとも怯えたように肩を跳ねさせた綾時のものだったのか。歩み寄れば綾時は必死にその場に踏み止まりながら、まるで断罪を待つようにゆっくりと顔を上げた。
 ようやく視線が合う。綾時の瞳と。
「…………綾時」
 そっと肩に触れて引き寄せる。はっきりとわかるほどにピクリと揺れる肩に、まるで悪いことをしているみたいだと自身に苦笑を漏らしながら、それでも構わずに抱き寄せて背中をぽんぽんと叩いた。それは一昨日、綾時と一緒にたこ焼きを買いに行った店の前で出会った母親が、泣きじゃくる子供をあやしていたのを再現したものだった。
 途中で綾時も気づいたのか、酷いや、と鼻水をすすりながら抗議してくる。だがその今にも泣きだしそうな表情では、抗議にもなっていないと気づくべきだ。
「聞かせて」
「わか、ってるよ。僕がちゃんと説明する、から」
「そうじゃないよ綾時。説明じゃなくて聞かせて。綾時の言葉で、綾時の想いを」
「……難しいことを言うんだね」
「難しいぐらいでいいだろ。お前はもう少し頭を使った方がいいからな」
「酷いなぁ」
 泣き笑いの顔が覗き込むように瞳を合わせ、そして想いの全てを捧げるように月を仰ぎ見た。
 橋の上から眺める月はどこにも遮蔽物はなく、ただただ怖いぐらいに大きくて明るい真円を暗い空に描き出していた。真っ暗な空と、月明かりのせいで星すら消えてしまっている眩しいほどの月。それはまるで夜空に開いた穴のようで、逆らい難い浮遊感と落下感を、同時に抱きながら、ただただこの手だけは離すまいと互いの体を抱きしめあった。
 それだけが残された希望なのだと自身に言い聞かすように。

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