運命の果てまで

テイルズ(V/G/A/S-R/D)・FF・Dグレなど、ゲームやマンガに好き勝手萌える腐ログ

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手の甲へのキスは敬愛

髪へのキスは思慕
胸へのキスは所有

と続くジェイルク
相変わらずの雰囲気SSということは気にしない
キスの日から遅れまくってるのも気にしない


 
「生きてください」
 短く呟かれた言葉が無理な願いであることを発言者は知識として知っていたし、願われた子供は己の身に圧し掛かってくる事実として痛いほどに実感していることだった。それは不可能と同義語であり不可分で不可避のもので、どれだけ努力や奇跡に頼ろうともどうしようもなく訪れる未来であることを他の誰よりも深く強くわかっていた。
 だがそれでも。その願いがどれだけ愚かなものであるとわかっていても願うことはやめられなかったし、その願いがどれだけ自分にとって価値のあるものであったとしても頷くことのできない事には変わりなかった。
 二人は痛いほど知っていた。二人が誰よりも痛みと共に知っていた。
 欲しているものがどれだけこの世界で些細なものであるかをわかっていても、自分たちの上には決して降り注がないものであることを知っていた。伸ばした手が相手に届く時間が残りわずかなのも、その声を聴くことができる時間も、その姿を視界に収めることができる時間も、自分の想いを抱いていられる時間さえもが断ち切られることを避けられないことを良くわかっていた。
 それでも言わずにはいられなかったのだ。
 言えばそれだけ相手も自分も傷つくとわかっていても、そうやって痛む傷すら得難いものであることを知っているから、痛みを感じるうちにできるだけ多く証として残しておきたかった。とても身勝手で無価値で無駄なことだとわかっていても、二人にとっては無意味ではないと信じていたかったのだ。
 自分らしくない。自分がこんなことを考えて行動に移してしまうなど、本当にどうかしているとしか思えない。そう考えたのが顔に出たのか、目の前の子どもはジェイドをじっと見上げながら微かに目を細めて楽しそうに口を開いた。
「俺、もしかしてすっげーレアな言葉聞いた?」
「さぁどうでしょうか。いえ……そうですね」
 不本意な言われようだと思ったが少しだけ明るさのある声に前では否定する必要はなかったので肯定した。
「私も少し驚いてますよ。でもおそらくもう二度と口にすることはないでしょう」
 だからこの言葉を聞くのは貴方が最後だと思いますよ。
 まるでそれが何かの免罪符のように、もしくは重要な価値であるかのように付け足した。
 自分も余計なことを言うようになったものだと半分呆れながら、けれどこうやって余計なことを口にするようになったのは全て目の前の子ども故なのだからきっと悪くはないのだろうと、理論的なのか少しもそうではないのかわからない思考を経て自分を納得させる。
 間を持たせるように、ずれてもいないメガネを手袋をしたままの手で押し上げた。
 子供は小さく笑った。世間知らずで人のことなど一切意に介さなかったはずの子供は、けれど人一倍繊細で多感な感情をその幼い両手で精一杯に抱えながら成長して、そうしていつの間にかジェイド自身よりもジェイドの内側を見通すようになってしまったのか、俺だけへの言葉なんだな、とほほ笑んだ。寂しそうなと表現するべき表情と嬉しそうだと表現すべき表情をちょうど半分ずつ浮かべながら、ぽつりとそう言った。
 その見解を否定するものをジェイドは持ち合わせていなかったが、それを完全に肯定するには自分自身の感情というのは不明瞭なものだったので、そうであって欲しいですねと返した。なんだよそれ、と漏れた声は震えていたが泣きそうだったのかそれ以外の理由があったのかはやっぱりわからなかった。だがそれでいいのかもしれない。この子供はいつもジェイドにわからないものを突き付けてきて、そしてわからないという他の何に対しても抱かない感覚をジェイドの中に残して去っていってくれるということなのだから。
 ジェイドの中でこの子供だけがわからない。ずっと。例え消えてしまっても。
 ふとそうしたいと思って、小さな手をとった。子供は驚いたようにぴくりと反応したけれども離れるようなことはなくて、それどころかこちらの手を同じようにそっと握り返してきた。見た目よりも少ない年月しか使用されていない手は、剣を握ってはいてもどことなく幼さを残しているようでその輪郭はとても未成熟だ。
 たくさんの血で汚れている手だと、夜一人で苦しんでいる姿は何度も見たことがあるが、ジェイドはその背中に一度も声をかけたことはなかった。かけるべき言葉を自分などが知っている訳がなかった。自分の手はもっと汚れているし、その事実を受け止めはしても抱え込んだことはなかったし苦しんだこともないのだから。ただ、子供が苦しみ厭うほどに小さな手が汚れているはずなどないと、例え多くの命を刈り取った手だとしてもジェイドとは違って血を吸い込んでいる手ではないと、だからこの手はジェイドから見れば愛しいまでに綺麗だとそう思うだけだった。思うだけでそれを告げたことはない。
 だから言葉の代わりに小さな手を引き寄せて手の甲に口づけをした。
 この手は自分にとって汚れてなどいないのだと。
「ジェイ、ド……」
 強張った手は逃げようとはしない。ただ怯えたように奇妙に力が入って震えているだけだ。嫌がられている訳ではないということだけはジェイドにもわかって、だから唇を離してからもう一度戯れや間違いではないということを刻み込むように口づけをした。
「少し震えていますね、ルーク。……寒いですか?」
「そっ、そんな、のっ――!」
 余裕のない表情がこもったように言葉を詰まらせる。
 だがこちらの言葉にこもってしまったものに気づいたのか、やや頬を膨らませて視線が外れた。こういう仕草をすると、あまり自分には馴染みのないものだが年相応の子供らしさ――それは実年齢的な意味で――というものなのだろうと思えた。小さな、確認するのも不似合いなほどの小さな痛みに胸を刺されるような心地と共にそう思った。
「…………そりゃ雪に覆われたケテルブルクは寒いっつーの。当然、だろ。で、も……」
 目が少し伏せて、ゆっくりと瞼が持ち上がって見上げてくる。
 手をこちらに委ねたまま一歩近づいてきた。そうすると腕と腕が振れ合いそうなほどの距離。胸と胸が当たりそうな距離。互いの呼吸が感じられる距離。
 委ねているのとは反対側の手がそろりと持ち上がり、ゆっくりとけれども迷わずにジェイドの髪に触れた。まるで壊れ物を扱うようにそっと髪を掌に乗せて、視線を向けたままジェイドがそうしたのと同じような動きで毛先に口づけをしてきた。
 髪に神経などあるはずはないのに、小さな唇が触れた瞬間にぴりっと痺れるようなものを感じた。胸の奥の方が不可思議な熱を帯びたような気がして自分の鼓動が僅かに乱れ痛みを生み出したが、それは不快なものから遠く離れた感覚となって体中に広がっていく。
「――お返し」
「仕返し、ではないのですか?」
「違うってーの。だって俺……仕返ししなきゃいけないことされてねぇ、だろ」
「……そうです、か」
「うん」
 でももう少しだけいいかな、と控えめな声が続いた。
 先を促すでもなくただじっと側にある赤い髪を見つめる。
 もう一人の彼よりも色彩の薄い髪をこの子供は劣化の証かなと呟いたことがあった。その時ジェイドは血のように赤い自分の瞳と同じように鮮やか過ぎる色よりいいのではないですかと答えたのだが、その言葉に小さな笑みを浮かべながら、だからだよ、と言ったのだ。だから俺も同じように赤い色が良かったと。ジェイドと同じ色が良かったと。そう言ったのだ。ただのくだらない無いものねだりかもしれないけど、と。
 その時にジェイドも少しだけ不毛なことを思った。自分のこの赤い瞳は好きでも嫌いでもないけれど、同じが良かったと言われるならば良かったのかもしれないと。そして同時にこうも思ったのだ。それならばこの瞳の色がオレンジに近い淡い色ならばもっと良かったのに、と。少しも論理的でも現実的でもない思考をその時はすぐに無意味なものと切り捨てて忘れてしまったけれども、こうして今更に思いだしてしまえば貴重で大切なもののようにも思えた。ただ昔を懐かしむだけの、それこそ無いものねだりに近い思いなのかもしれないけれど。
「少しだけでいいんだ。今この瞬間だけ……我儘を言ってもいいかな」
「何です?」
 答えれば力の抜けた子供の体がこつんと倒れ込むように顔を胸に埋めてきた。ジェイドの胸元に、心臓の上に唇を押し当てるようにして。
 触れた唇の感触は服に阻まれてわかるはずもなかったけれども、まるで自分の居場所を確認する口づけのような姿勢は次第に胸元を温かくしていった。それは物理的な温もりだったのか、それとも思い込みによる温もりだったのかはわからない。ただジェイドは確かに温もりを感じ、それはまるで所有を刻まれているかのような行為に思えただけだった。
 それがとても、嬉しい、とそう思えた。
「……ありがとう」
「礼を言われるようなことは何もしていませんよ」
「言いたかったんだよ」
「そうですか」
 それなら別に構いませんよ。
 いつもと同じ口調で、けれど少しだけ何か違う成分が混ざるのを自覚しながら、胸元の温もりに応えるように再び子供の手に口づけを返した。

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