運命の果てまで

テイルズ(V/G/A/S-R/D)・FF・Dグレなど、ゲームやマンガに好き勝手萌える腐ログ

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温かい家

P4で堂主

季節外れ感満載です
おでんを食べる寒い日の話です
それだけの話です


 
 ぐつぐつと煮えている鍋のダシをお玉で掬い上げて、浸りきっていない具材にかけていく。
 立ち上る湯気は温かくて、自画自賛ではないが美味しそうな匂いが漂っていた。先に菜々子と食べた時にはすごくおいしいと満面の笑みでたくさん食べてもらえたので、まずまずの出来のはずだ。こうやって温め直していると、匂いにつられて自分も空腹を感じてくる。もちろん、帰ってきたら一緒に食べるつもりで少し控えめに食べていたのは否定しないが。
「美味そうな匂いだな」
「菜々子には好評でしたよ。もうすぐ温まりますから……あ、ビールは一番上の段の奥です」
「あぁ」
 コップは? との問いにはこのままでいいとの返事があった。
 もうコップで飲むよりも缶のまま飲む方が慣れてしまっている、というのは言われたことがある。昔はコップに移した方が美味しく感じたんだがな、とも。
 その証拠に食器棚の奥には、使われているのを見たことがないビール用のコップが仕舞い込まれているのは知っていた。切子細工の上品なものだ。使わなくなった原因は容易に推測できたが、問い質したこともそのコップを取り出したこともない。
 そこまでまだ自分には踏み込めない。まだ、なのか、ずっと、なのかはわからない。そして踏み込みたいのかどうかも、明瞭ではない。
 缶ビールが明けられる音がすぐ後ろでした。
 振り向けば立ったままビールを嚥下している。行儀が悪いですよと笑って注意すれば、お前も菜々子と同じことを言うんだなと苦笑された。幸せを噛み締めるように二階の方へと視線を送る表情はとても柔らかい。
 とくん、と温かさと痛みの混じった心音に軽く瞼を伏せた。
 自この叔父の何げない言葉や表情に誘発されるようにして、分の意識や感情が追いつかないところでの反応が最近頻繁に起こる。
「だがまぁ……温かくなったな」
 しみじみとした呟きに顔を上げた。
「? 今日は随分と冷え込んでると思うんですけど? 天気予報でも零℃を下回るって」
「うん? あー、まぁなんだ、悠。お前は察しがいいのにたまにそういうところがあるなぁ。……そうじゃなくて、な」
 こちらの顔を見て、鍋に視線を移して、そしてまた視線を戻して柔らかく笑う。目を細めて笑う表情はどこか切なげな気配があって、そこには自分の知らない堂島の時間が存在していて、伝播してくるものに胸がぎゅっと締め付けられるようだった。
 触れることが躊躇われる、けれど離れたくないと願うもの。
 お前も家族だと言ってもらった時と同じような確かな温もりと、それとはまた別の種類の小さいけれども焦げそうな熱の存在とが疼く。
「こうして台所に火が入っていると、温度だけじゃなくて家の雰囲気が、な。人が住んでいる温かさが伝わってくるだろ」
 人が住んでいても火の気のない家は寒々しく感じる。
 二人きりだった堂島家ではご飯を作ることはなく、台所を使うといえばポットでお湯を沸かすことぐらいがせいぜいで。コンロは、悠がこの家に来るまでずっとほこりをかぶり続けていて、文字通りこの家には火がなかったのだ。
 それが、今は週の半分は悠が夕食を作るようにしている。お弁当のことも考えれば、格段に台所は活躍していると言っていいだろう。この家の、堂島家の姿を形作る重要な一つ、と言っていいぐらいには。
「お前が来てからこの家は、家らしく温かくなった」
「……」
「火の温もりだけじゃなくてな。それはお前が……悠、お前がいることを嬉しいと俺が思うから、なのかもしれないな」
 心の底から温かいと、そう感じられるのは。
 照れたように続けられる言葉は社交辞令でも何でもなく本心だとわかるから、かっと全身をめぐる熱を実感せずにはいられなかった。こんな時ばかりは感情が表情に出にくい自分に感謝したくなる。
「……叔父、さん」
「ははっ。口に出すのは恥ずかしいな。――ところで悠、おでんには普通ロールキャベツが入るものなのか?」
 訝しげな視線に自分も鍋に視線を戻した。
 練り物の隣には昨日作ったロールキャベツの残りを一緒に煮込んである。昨日はデミグラスソースをかけて食べたが、今は出しが染み込んだいい色に変わってきていた。
「あ、……いえ、どうでしょう? 残っていたんで入れてみたんですが。ポトフに入れるならおでんもそんなに違いはないかなぁ、と。変、ですかね?」
 一応菜々子には好評だったのだが、おかしな常識を植え付ける訳にはいかないので、おかしいのなら明日ちゃんと訂正してあげなければいけない。
 不安になって問うと、堂島はやや真面目に思案した後に、柔らかく破顔した。
「俺は料理をしないからおかしいかどうかはわからんが、まぁ美味そうだからいいだろ」
「すみません。おでんって家で食べたことがなくて」
「そうなのか? あー、あの姉貴なら確かに作りそうにないな」
「コンビニで見たことはあるんですけど、まぁ煮込むものなら変な味にはならないかな、と」
「なるほどな。お前は細かいことまでよく見てるが意外に大雑把なところもあるな」
 笑われて、子ども扱いのように頭をくしゃくしゃと撫でられたのは少し不満だったが、手のひらの温かさが心地良くて、止めてくださいという言葉も形だけのものでしかなかった。自分とそう大きさの変わらない手を大きいと思うことはなかったが、太い指と分厚い手のひらは体温以上のものを分け与えてくれる。
「いいじゃないか。我が家の、堂島家オリジナルおでんだな」
 そう続けられた言葉は掛け値なしに嬉しかった。
 自分の作るものが堂島家の味なのだと、それは堂島にとっては何げない言葉だったのかもしれないが、写真に収まった三人の笑顔と同じだけの温もりを、自分の中に作り出してくれるものだった。当たり前のように受けれてくれていて、深く強く抱きしめられている安心をくれる、とても居心地のいい場所。
「美味しければ、いいんですけど」
「お前の作る飯は美味いさ。俺が保証してやる。足立もな、最近は寿司を奢れって言うよりもお前の手料理を食わせろっていうぞ。それに――」
「それに?」
 手のひらの下から視線を向ければ、じっと自分を見つめ返してくる精悍な瞳。
 この瞳は揺るがないと思う。人付き合いの苦手だった自分を迎えた時も、この街に慣れたかと気遣ってくれる時も、余計なことに首を突っ込むなと諌める時も、菜々子のことを頼むという時も、家族だと居場所をくれた時も。ただ真っ直ぐと、鳴上悠、という存在を見てくれている。
 寡黙な瞳は今まで気づかなかったことをたくさん教えてくれた。家族の温かさや、自分以外の存在の心地良さや、人とのかかわり方や家族の意味、そして一人の時の寂しさも。
 そして何よりも、
「お前と……家族と食う飯は美味いさ」
「……はい」
 熱く燻ぶる感情を教えてくれた。
 時に苦しいけれども温かくて手放したくないと思える感情を。
「そろそろ出来そうか?」
「――あ、そうですね。持っていきます」
 コンロの火を止めて鍋を持ち上げる。
 外は冷え込んでいるかもしれないけれども、確かにこの家の中は温かい。
 数歩前にある大きく見える背中を見つめながらそう思った。


何気ない温かい日常
番長はそんな毎日を噛みしめていたらいいと思います
そして態度には出さないけど堂島さんも幸せを感じてたらいい

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