運命の果てまで

テイルズ(V/G/A/S-R/D)・FF・Dグレなど、ゲームやマンガに好き勝手萌える腐ログ

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好物

ラムダとアスベルでとてもくだらない日常の会話。
ラムアスかアスラムかはお好みでどうぞ。


 
「なぁ、ラムダ」
 未処理と処理済みの束が丁度半分になる書類にサインを書き記しながら呟いた声が、一人しかいない執務室の中に静かに響く。
 声音は単なる独り言のレベルだが、返事があることを疑っていない声だ。たっぷり十数秒の沈黙が流れても全く気にした様子はなく、書き終わった書類を処理済みの山に重ねて手を止めていた。
「――なんだ」
 無視を決め込もうかと逡巡したが、どうせ黙り込んでも反応があるまで話しかけられることはわかっているので渋々と言葉を返す。
 この男はまったく変わっていて面倒な男だ。
 身の内に寄生していつか乗っ取ってやろうと考えているはずのラムダに対して、警戒心というものが全くないのが解せない。それどころか親しい知り合いに対するように話しかけたりするのは一体何を考えているのか。ラムダのことを、いつでも話しかけられる便利な話し相手ぐらいにしか考えていないのではないかと思うほどだ。
 そもそもアスベルの言葉にそれほど深い意図も意味もないことの方が多い。今日は晴れているだの、少し寒いだの、昼食にはカレーが出るだの、バロニアに行く用事が出来たからリチャードに会えるぞだの、どうでもいいことを勝手に、しかものん気に幸せそうに語りかけてくるのだ。いったいどういった返事を期待しているというのか。この世界を壊そうとしたラムダ相手に。
「単純な疑問なんだけど、俺が怪我とかしたらお前も痛かったりするのか?」
「――くだらぬことを」
「だってお前、憎いとか嫌だとかは言っても痛いってのはないだろ? やっぱり疑問に思うのは当然じゃないか」
 何をもって当然というのかは突っ込んでやりたいところだが、どうせそんなことで考えを改めたりするような輩ではないことはわかっているので黙っておく。何故話しかけると会話を打ち切ろうとした時に、相手のことを知りたいと思うのは当然だろと、本当に当たり前だというふうに不思議な顔をされたので、もうその辺りの認識の違いを埋める努力は放棄していた。
 時間はたっぷりある身とはいえ、相手をすることに疲れることは多々あるのだ。
「――基本的に我に人のような神経は存在せぬ。が、お前の身の内に居るのだ。感覚はある程度共有して知ることぐらいは出来る」
「ふーん。味とかもわかるのか?」
「そのものではなく、お前がどう感じたか、ならな」
 だったら、と声が弾んだ時には既に何となく嫌な予感がしていた。
 予感というのは少し語弊があるかもしれない。それは一足先に感じた脱力感と言っていいかもしれない。この手の口調で続けられた会話でラムダにとって有益だったやり取りの記憶は皆無なのだ。
 そして今回も案の定、
「ラムダもカレーは甘口の方が好きってことだよな?」
「……。何をどう取ればそういう結論になるのか、我はほとほとお前の思考がわからぬ」
「そうか? 今の話だと俺が好きなものは好きってことだろ?」
「物事を単純にするな。そういう感覚を「知る」事が出来るという話だ。我は特に何とも感じはせぬ」
 でも嫌いじゃないってことだよなと、妙に嬉しそうに重ねられて否定の言葉は飲み込んだ。
 食事という概念自身がラムダにはないのだ。エレスを吸収しその力を蓄積したり回復に使ったりすることはあっても、厳密にそれは食事というものとは違う。放っておいても力は次第に回復するものだし、吸収することに何らかの感覚や嗜好がついてくることもないのだ。
 だから味覚などというものは本来ラムダの理解外にある。ただ幾度も人やアンドロイドの体に寄生しながら生きてきたので、それが生物にとって必要なものであり感情や感覚に繋がっているものだということぐらいは、知識として理解はしている。だがそれだけだ。
 何かを食べたいと思うこともなければ、何かを食べたくないなどという感覚もない。好みなどというものも存在しない。ラムダにあるのはただ寄生主が抱いた感覚、その欠片だけだ。
 それとて遮断しようとしてしまえば出来ないことのないものだ。ならばなぜそうしないのかと問われれば、このままでも問題ないだけで決して他意がある訳でもない。強いて言えば感覚ごと繋がっている方が状況がつぶさにわかり、乗っ取るのに都合がいいからに過ぎない。ただそれだけのことだ。
「でも辛いカレーは嫌いだろ?」
「……。不快だと抱くことはあるな」
「一緒なんだなー」
「だから、それは我の感覚ではなくお前の……」
「だったらお前の好きなもの探そうか」
「…………何を言っておる」
 もうこのまま強制的に会話を打ち切ってやろうかと思ったが何とか言葉を絞り出す。
 この男は何が楽しいのか、毎日くだらない会話を仕掛けてくる。その内容が稚拙で他愛のないことばかりなのは、何もラムダでなくても感じることだろう。それなのに何が楽しいのか、つまらない話を言葉を噛みしめるように嬉しそうな表情で口にするのだ。
 いつも決まって仕事が半分片付いた、一人きりの執務室の中で。
 だが以前は必ず誰かが執務室の中に居たことをラムダは知っていた。ラムダが目覚めてからはいつも執務室は人払いされるようになったことも知っている。苦手な書類を早く片付ける為に、起床時間が一時間早くなっていることも、別に知りたかったわけではないが知っていた。
 話しかけたければ眠っていても出来るものを。夜は夢を見る時間だからなと、妙なところで頑固に人としての生活のリズムを崩さないのだ。いや、ラムダを人のように扱おうとしているのかもしれない。無駄な労力だというのに。
「俺が普通のぐらいのものを食べたらさ、お前自身がどう感じるかわかるかもしれないじゃないか」
「――それがわかったとしてどうする」
「好きなものがわかったらメニューに選べるじゃないか。だってソフィもカニタマが特別に好きだし、お前にも何か特別に好きなものが見つかるかもしれない」
「見つかってどうする」
「大好きなものがあった方が楽しいだろ」
 ごくごく当然という口調で、くだらないことを断言する。
 この台詞に押しつけがましいものや恩着せがましいものが含まれていたならば鼻で笑って会話を打ち切れるものを、この愚かで馬鹿な男は本気でそう考えているのだから返答に窮してしまうのだ。ラムダを人と同列に扱おうとしているのではない。本気で人と同列だと――何処が違うのだと思っているのだ。そして自分を乗っ取ることの出来るラムダを当たり前のように信用していて、隠すことなくその根底までを見せつけてくる。
 もちろんこの男にも人として当然の苦いものや後悔や傷も多数抱えていることは知っているが、それでも巡り巡って出てくる結論は常に前を向いていて、ともすれば能天気で楽観的で馬鹿みたいなものに行きついているのだ。腹立ちまぎれに傷口を抉ってやっても、少しだけ困ったような表情で笑って見せるだけで、黒々としたものがラムダの精神に流れ込んでくることはなかった。
「……何故楽しまなくてはならん」
「何故? うーん、そんなこと考えたことないけど、楽しくないよりは楽しい方がいいだろ」
「我は別にそのようなこと望んでおらぬ」
「だったら、まずは楽しいってことを楽しむことから始めなきゃ、かな」
「…………。我の話を聞いているか?」
「あぁ。お前が本当にまだ何も知らない、ってな」
 振り向いて、アスベルは硝子に映った顔を見つめる。
 視線は色の変わった左目を見つめていて、アメジスト色に染まった瞳に赤い光がその視線を受けて小さく明滅したのがラムダにもわかった。ざわりとどこか深い部分がざわめく。苛立ちに似た感覚は、そのくせ不快な成分を有してはいなかった。
「まずはオムライスでも試してみるか。昔っからヒューバートの奴、泣いててもオムライスが出てきたら笑顔になったからなぁ。あ、バナナパイでもいいぞ。パスカルが絶対これは美味しいってずっと言っててさ、新しいバナナパイ製造気が出来たって言っては送りつけてくるもんだからもう六台もあるんだ。あれなら俺でも作ってやれそうだしな」
「いらぬ」
「そんなこと言うなよ。試してみるぐらいはいいだろ」
「……カレーで良い」
「え?」
「ただしマーボーカレーだ」
「ええっ?! だってあれは邪道…………だけど、まぁ、あれはあれで美味い、か」
 納得したような納得しきれていないような返答は、だが言い終わる頃にはにっこりとした笑みを浮かべて弾むような声になっていた。本当に、何がそんなに楽しいのか。理解し難い男だ。
「じゃぁ今晩はマーボーカレーだな」
「昼にカレーを食しておいてか」
「一週間ぐらいは続いても普通だろ」
「それに関しては普通ではないと我は断言するぞ」
「だったら早く仕事片付けてしまわないとな」
 文句などまったく聞かずにそう言うと、ペンを持ち直して未処理の書類へと楽しげに手を伸ばした。
 目の前に引き寄せられた書類が風でふわりと浮いた。まるで紙さえも楽しげに踊っているように見えて本当にくだらなくて忌々しいと吐き出したが、返って来たのはカレーのことばかり考えている思考で、深い深い溜息をつきながらそれ以上話しかけることは諦めた。

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