運命の果てまで

テイルズ(V/G/A/S-R/D)・FF・Dグレなど、ゲームやマンガに好き勝手萌える腐ログ

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日常の距離

相変わらずのリハビリ期間。
痒いレイユリでよろしければどうぞ。


 
「ちょ、青年歩くの速いわよ?」
「ちんたらすんなよ。寒いんだから早く宿に戻ろうぜ」
「そんなこと言ったって、おっさん疲れたわ?」
「俺より二の腕太いくせに文句言うな。一応年寄り扱いして重い方の荷物は俺が持ってやってるだろ」
 振り返らない背中は素っ気ない声でレイヴンの主張を一蹴した。一歩半前を、黒いボトムに包まれた長い脚が変わらずテンポで石畳を進んでいく。
 が、僅かながら歩幅がせまくなったことに気づいて、レイヴンは崩れそうになる紙袋を抱え直した。レイヴンの歩き方は全く変わっていないのに、間にあった距離はすぐに縮まって、艶やかな黒髪が頬のすぐ横を流れていく。
 ふわりと漂ってくる花の香りは、宿の主人が勘違いで気を利かせてしまった、女性向けに人気のシャンプーのものだ。
「ううっ、その優しさは嬉しいけど年寄り扱いは寂しい」
「面倒くせぇおっさんだな」
 真横に並んだレイヴンをユーリの眼差しが見下ろす。
「食料が底をつきかけてたし、リタに頼まれたものもあったし、仕方ねぇだろ」
「……おっさんには大半がデザートの材料に思えるんだけど?」
「鬱陶しいぐらいに誰かさんが愛を叫ぶせいで常にTP不足だからなー」
 さらさらと流れる前髪の向こうで長い睫毛が瞳を際立たせるように揺れ、瞬きを繰り返した後に笑いで眇められた。皮肉を吐き出しているにもかかわらず、柔らかな弓型に持ち上げられた唇がいやに魅惑的だ。
 髪が揺れる度に広がるシャンプーの香りが、妙な錯覚を引き起こしそうだった。
「ええっ?! 鬱陶しいって酷いっ! おっさん頑張ってるのに!」
「あーはいはい」
「気のない返事しないでよー」
「気のない返事しかしようがないんだから仕方がねぇだろ――ん?」
 レイヴンの抗議はあっさりと無視して、ユーリはふと視線を通りに並ぶ店先へと向ける。その視線の先を追うようにレイヴンも振り向けば、同時に口の中に広がりそうなほど甘い香りが漂ってきた。
 濃い香りに胸やけを起こしそうな気分で顔をしかめる。体に悪そうなほど人工的で毒々しいまでの甘い香りだ。
 もともと味にそれほどこだわりもなければ、食べ物に執着がある訳でもないので、手軽に口に出来て最低限の栄養が摂取出来て味が壊滅的でなければいい、というのがレイヴンの考え方だ。だが苦手なものもある訳で、その筆頭が甘いものだった。
 甘いプリンを食べさせられるなら、出来損ないの茶わん蒸しの方が有難いと思うのだ。
「……うまそう」
 だがそれは残念ながら、ユーリには同意を得られない意見でもある。
 黒真珠のように艶やかな双眸は、リヤカーの上に作られた即席の屋台にくぎ付けになっていた。
 ユーリは下町でおかみさんの手伝いをしていたからか、料理の腕はなかなかのものだ。盛り付けこそこだわりが少ないが、手間を惜しまない丁寧な下拵えに絶妙のセンスと味覚で、栄養バランスも抜群の品をいつも提供してくれる。
 だがその代わりというか反動というか、甘いものに関してはどうも一般人と味覚が違っていた。料理に対する繊細な味付けはどこへやら、砂糖を大量に放り込めばいいと考えているのではないかと疑ってしまうようなほど、子供向けの激甘主義になる。
 最高に上手く出来たと口に突っ込まれたパフェの甘さに、冗談でなく本気で意識が飛びかけたのはつい先日のことだ。
「すっげー美味そう」
「あれ、明らかに砂糖オンリーの匂いよね?」
「最近甘い物食ってないしなー」
「いやいやいや。毎食後にデザート作ってるのは甘いものに入らないの?」
「ん? あれは甘さ控えめのデザート、だろ」
 死にそうな気分で飲み込んでいる甘いデザートは、どうやらユーリにとっては甘味の範疇に入っていないらしい。レイヴンの甘いもの苦手度合いも世間からずれてるとは思うが、さすがにユーリのその感覚も世間一般と同一ではないだろう。想像しただけで胃の辺りが重くなる気分だ。
 小さなフライパンの上でに詰められた砂糖が膨らんでいく様を、ユーリは楽しそうにじっと見つめている。店先で親にねだっている小さな子供と同じ眼差しだ。
 煮詰めた砂糖に重曹を加えて膨らませただけで、実際のところただの砂糖の塊。
 レイヴンにはそうとしか思えない代物だが、
「はい、青年」
「――――え?」
 小銭を取り出して渡せば、振り向いた瞳が戸惑ったように瞬きを繰り返す。
「パーティーのお金で自分の分だけ買うのは気が引けるんでしょ。それ、おっさんがギルドの仕事で貰った分だから気にせず買ってきなさいよ」
「そんなもん――」
「青年が重い荷物持ってくれたお礼よ。だから次の買い出しの時もおっさんの荷物は軽めでお願いね」
 ウインクして言えば、逡巡しながらもユーリにはにかむような笑みが浮かんだ。
 普段年少組にしか向けることのない柔らかな笑みに、一瞬息が詰まる。
「――サンキュ」
 屋台へと走っていく背を見つめながら、先ほどガルドを渡した時にユーリの掌に触れた指先を隠すように、ぎゅっと指を握り込む。そしてずり落ちてもきていない買い物袋を、もう一度両手で抱え直した。

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