運命の果てまで

テイルズ(V/G/A/S-R/D)・FF・Dグレなど、ゲームやマンガに好き勝手萌える腐ログ

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リンゴ飴

某所では既に晒してたんですが、修正してここでも。
色々突っ込みどころはあると思いますがスルーで。

ナイユリ親子です。


 
 小さな祭りを控えた街中を、見回りがてらぶらりと歩いていれば、立ち止まる長い黒髪が視界の端を掠めた気がして、ナイレンは足を止めた。
 眼前にあるのは立ち止まることを知らない人の波。いつもは静かな広場に溢れている老若男女入り乱れた人々のざわめき。
 大きくない街とはいえ、祭りを控えた広場は街中の人間を一カ所に集めたかのように人で溢れていた。その中で何か気になるものがあるなど思いつかなかったのだが、
「ん?」
 慌ただしい人々の中で、ふと一つの背中が意識を呼び止めた。
 通り過ぎる人々の流れの向こう側に、長い黒髪が寂しげにそよいでいるのが目に止まった。じっと佇む後姿は、周りの喧騒とは完全に切り離されているかのようで、その周りだけ空気がぴんと張っているかのようだ。
 普段宿舎内で見る姿とも、街に人々の様子とも違う気配に、ナイレンは眉をひそめた。
 まるでただ一人、この街にいるような背中。
 黒髪が全ての手を拒絶しているようにも見える。
 もしくは戸惑い恐れているようにも。
「――何見てるんだ?」
「!」
 近づいて声をかければ、勢いよく振り返った。
 青空の下で明るく照らされている紫紺の瞳がナイレンを捉えると、驚愕から安堵、そして反発に近い色へと塗り替えられていく。
 ころころと良く変わる気配だ。
 子ども特有の我儘な、けれど真っすぐで純粋な感情の表現。
「……なんだ、隊長かよ」
「お前、もうちっと可愛げのある言い方しろよ」
 苦笑して言えば、悪かったねと、少しも感情のこもってない言葉が返ってきた。
「なーに見てたんだ」
「何でもいいだろ」
「ん? 別に俺も見たっていいだろ?」
 嫌がりながらも立ち去らないユーリにもう一度笑いかけてから、先ほど向けられていた方へと視線をやる。
 視線の先、広場の一角は夜の祭りに向けて出店が立ち並び始めていた。香ばしい匂いや甘い匂いが辺りに立ち込めている。もう既に商売を始めている店もあるようだ。
 ユーリが見ていたであろう店も既に客の相手にしていて、ちょうど母親に連れられていた女の子に、赤い小さな食べ物を渡していた。
「リンゴ飴が、好きなのか?」
「……リンゴ飴っていうのか?」
「知らないのか」
「悪かったな。下町じゃぁ、そんなもん売ってなかったんだよ」
 確かに、この辺りではリンゴは良く収穫されるのだが、帝都では近くに畑もなく少々値のはる果物だった気もする。
 それに下町では祭りだといっても出店が立ち並ぶこともほとんどなかったはずだ。子供向けのお菓子として目にする機会など、そうそうあるものでもなかったのだろう。
 あぁそういえばユーリは甘いものが好きだと、ユルギスが呆れていたのを思い出した。
 個人の嗜好の問題だから別にいいだろうと思ったのだが、非番の日は菓子だけ食べて過ごしているらしく、ただでさえ騎士としては頑強な体つきではないのに、これでは栄養が偏り過ぎていると言っていた。
 それに先日ナイレン自身も、大きな紙袋に大量のグミを入れて抱えているユーリの姿は目撃していた。あの時は皆の分を代表で買いにきているのだと思っていたが、まさかあれも一人で食べたのだろうか。
「リンゴ……飴」
 ぽつりとユーリが呟く。
 視線はじっと店先に並んでいる赤い菓子にくぎづけのままだ。
「買ってやろうか」
「……はぁ?」
 興味なさげな返事が、けれど一瞬期待の眼差しを浮かべた。
 素直すぎるぐらいに素直じゃない反応に、あやすようにぽんと頭を撫でた。手袋ごしでもさらりと流れる髪質ががわかるぐらいに柔らかな感触が伝わってくる。
「食ったことねぇんだろ」
「いらねぇよ。ガキじゃあるまいし」
「遠慮なんかするなよ」
「ちょ、待てって!」
 そう言いながらも、ユーリの目線がリンゴ飴を窺うように追っているのがおかしい。別に甘いものは嫌いではないがそれほど執着もない身としては、それだけ欲しいと思えることに感心してしまうし手に入れさせてやりたいとも思えた。
 言い訳をしようとするのを無視しながら、財布からガルドを出して店の主人に渡し、小さなリンゴ飴を一つ、受け取る。
 手にしただけで、甘い匂いが空気を染めた。
 体に悪そうなほどの、甘い甘い匂いだ。
「――ほれ」
 差し出せば、赤く丸いリンゴを追うように、丸い紫紺の瞳も動いた。
「俺は、」
「食えって。今はお前、任務中じゃねぇんだからかまわねぇよ」
「別に――」
「甘いの苦手だからな、お前が食わねぇと困るんだ」
 もう一度差し出せば、戸惑いがちな手が細い串を掴んだ。
 串を掴む白く細い指と、赤く丸いリンゴ飴が、酷く鮮やかなアンバランスな対比を描き出している。
「抜けやすいからな。落として泣くなよ?」
「誰がっ!」
「はははっ、ほれ、落ちそうだぞ」
「え? ちょ、うおっ」
 斜めにした途端にするりと抜けそうになったリンゴ飴を口で押さえるようにしてユーリがかぶりつく。
 赤い赤い飴を咥える、薄桃色の唇。
 赤を際立たせる白い肌。
 唇を隠すように流れてくる、黒い髪。
 髪の隙間から見上げてくる、紫紺の瞳。
 寒い冬の空気を打ち消すように、久しく忘れていた熱いものがひっそりと生み出されるような気配を、ナイレンは自分の中に感じずにはいられなかった。
「……他の奴らには内緒だぞ? 何か奢れって煩いからな」
 小さな熱に引き摺られるようにして何かが胸にこみ上げてくるのを瞬きと一緒に抑え込み、少し不服そうなユーリに向ってゆっくりと笑い掛けた。
 赤く艶やかなリンゴ飴を必死にかじる、柔らかそうな唇を見ながら。

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